最低賃金
最低賃金は、国が定める賃金の最低限度額のことをいい、各都道府県ごとに定められます。
使用者は最低賃金額以上の賃金を支払わなくてはならず、仮に従業員との合意があっても最低賃金額を下回る契約は無効とされ、最低賃金額と同額の内容とみなされることになります。
最低賃金は、地域により若干の差異はありますが、毎年10月より改定されます。
愛知県の最低賃金は955円から令和4年10月1日より986円に増額改定となっております。
なお、製鉄業や一部の製造業などの特定の産業についてはより水準の高い最低賃金額が定められていますので注意が必要です。
愛知県の最低賃金額の詳細については「愛知県の最低賃金」をご参照ください。
賃金の引き上げは企業にとって人件費の負担が増えることになりますが、最低賃金の引き上げによって利用できる助成金もあります。
本記事では、最低賃金の引き上げと関連性の強い制度として、業務改善助成金の概要を紹介をいたします。
業務改善助成金
業務改善助成金は、事業場内最低賃金(事業場内で最も低い賃金)の引き上げを行った事業者に対して設備投資等の費用の一部を助成する制度です。
業務改善助成金には通常コースと新型コロナウイルスの影響により売上高等が30%以上減少した中小企業事業者等を対象とする特例コースがありますが、下記では通常コースを前提とした内容を記載します。
1.対象事業者
業務改善助成金の対象事業者の要件は下記のとおりです。
①下記で定めるいずれかの中小企業者であること
業種 | 資本金の額又は出資の総額 | 常時使用する企業全体の労働者数 |
一般産業(下記以外) | 3億円以下の法人 | 300人以下 |
卸売業 | 1億円以下の法人 | 100人以下 |
サービス業 | 5,000万円以下の法人 | 100人以下 |
小売業 | 5,000万円以下の法人 | 50人以下 |
②日本国内の事業場で所属する労働者が100人以下であること
③事業場内最低賃金と地域別最低賃金の差額が30円以内であること
2.対象経費
生産性向上や労働能率の増進のための下記の設備投資等の経費が対象となります。
謝金、旅費、借損料、会議費、雑役務費、印刷製本費、原材料費、機械装置等購入費、造作費、人材育成・教育訓練費、経営コンサルティング経費、委託費
具体的には下記のような費用が対象経費の例として挙げられています。
・POS レジシステム導入による在庫管理の短縮
・リフト付き特殊車両の導入による送迎時間の短縮
・顧客・在庫・帳票管理システムの導入による業務の効率化
・専門家による業務フロー見直しによる顧客回転率の向上
また、新型コロナウイルスの影響により売上高等の最近3か月間の平均値が前年、前々年又は3年前同期に比べて15%以上減少している事業者や原材料費の高騰など社会的・経済的環境の変化等の外的要因により申請前3か月間のうちの任意の1月における売上高総利益率又は売上高営業利益率が前年同月に比べて3%以上減少している事業者(特例事業者)は、下記の経費も対象とすることができます。
・乗車定員7人以上人又は車両本体価格 200 万円以下の自動車及び貨物自動車等
・パソコン、タブレット、スマートフォン等の端末及び周辺機器(新規購入に限る。)
3.支給要件
①賃金引上計画を策定すること
事業場内最低賃金を一定額以上引き上げた内容を就業規則等に規定する必要があります。
②引き上げ後の賃金額を支払うこと
③生産性向上のための設備投資等を行うこと
単なる経費削減のための経費、職場環境を改善するための経費、通常の事業活動に伴う経費などは対象外です。
④不交付事由に該当しないこと
労働者の解雇や賃金額の引き下げなどが不交付事由とされています。
4.手続きの流れ
業務改善助成金の手続きの流れは下記のとおりです。
①助成金交付申請書の提出
「業務改善計画」と「賃金引上計画」を記載した交付申請書を作成して、都道府県労働局に提出します。交付申請書の審査の結果、内容が適正と認められると交付決定通知が届きます。
②「業務改善計画」と「賃金引上計画」の実施
「業務改善計画」や「賃金引上計画」に基づいて、設備投資等や事業場内最低賃金の引上げを行います。
最低賃金の引上げは交付申請書の提出後から事業完了期日(令和5年3月末)までに実施する必要があります。
設備投資等の実施と支払いは交付決定後に行う必要があります。
※交付申請書を提出する前に設備投資等や最低賃金の引上げを行った場合は対象外となりますのでご注意ください。
③事業実績報告書の提出
業務改善計画の実施結果と賃金引上げ状況を記載した事業実績報告書を作成し、都道府県労働局に提出します。事業実績報告書の審査の結果、内容が適正と認められると助成金額の確定通知が届きます。
なお、事業実績報告書の添付書類として下記の書類が必要となります。
・賃金を引き上げた労働者の賃金台帳の写し
・事業場内最低賃金を規定した就業規則等の写し
・導入した設備投資等に関する書類(納品書、写真等)
・経費の支出に関する書類(請求書、領収書、費用の振込みが確認できるもの等)
④支払請求書の提出・助成金の支給
助成金額の確定通知が届いたら、支払請求書を提出して助成金の支給を受けます。
⑤状況報告の提出
助成金支給後に状況報告の提出により不交付要件について確認されます。状況報告の提出に際しては下記の添付書類が必要とされています。
・賃金を引き上げてから支払請求手続を行った日の前日又は賃金を引き上げてから6月を経過した日のいずれか遅い日までに解雇等があると報告された当該労働者及び賃金引上計画に基づいて賃金を引き上げた労働者の賃金台帳の写し
5.助成額・助成率
助成額や助成率は引き上げる賃金額や引き上げる労働者数に応じて変動します。
また、生産性要件を満たす事業者は助成率が引き上げられます。
厚生労働省-中小企業最低賃金引き上げ支援対策費補助金(業務改善助成金)通常コース申請マニュアル-より抜粋
6.申請期限
申請期限は令和5年1月31日までとなっています。
ただし、予算が尽きた場合は、申請期間内に募集を終了する場合があります。
おわりに
最低賃金の引き上げは小売業や飲食業などアルバイトを多数雇用するような企業においては人件費の負担増大の影響が少なくありません。
しかしながら、業務改善助成金を活用して生産性向上の設備投資等を行うことができれば、人件費の増大以上に売上を伸ばすチャンスでもあります。
助成金は要件を満たしていれば受給することができますが、就業規則の整備など専門家のサポートがなければ難しい面もあります。当事務所では就業規則の整備や助成金申請のサポートも行っておりますので、お困りの方はお気軽にご相談ください。
また、賃金の引き上げに関連する制度としては他にも税務上の賃上げ促進税制や補助金の特別枠などがあります。
当事務所では信頼できる税理士のご紹介や補助金のサポートも行っております。