変形労働時間制を活用した週休3日制、隔週休2日制
変形労働時間制
変形労働時間制とは、1週40時間、1日8時間という法定の労働時間の制限を一定の条件の下で緩和することができる制度です。すなわち、一定の期間(変形期間)を平均して1週40時間以内である限り、特定の週や特定の日において法定の労働時間を超える労働時間の設定が容認されるものです。
変形労働時間制度にはいくつかの種類がありますが、今回は最も利用されている「1か月単位の変形労働時間制」を前提に、週休3日制や隔週休2日制の導入について解説します。
週休3日制、隔週休2日制
週休3日制は1週間のうち3日休みがある勤務体系をいいます。
他方で、隔週休2日制は1週間のうち2日休みの週と1日休みの週が交互に訪れる勤務体系をいいます。
前述の1週40時間、1日8時間という原則的な労働時間を基準とする場合、週休3日制では労働時間が1週間に32時間と短くなるため労働者の賃金もその分だけ低くせざるを得ないのが一般的です。他方で、隔週休2日制では1週間に48時間労働の週が生じるため違法となる可能性が生じてしまいます。
※残業時間を前提とした労働時間をあらかじめ設定することはできないのです。
そこで、変形労働時間制を活用することにより、労働者の賃金水準を維持し、あるいは適法に、週休3日制や隔週休2日制を導入する方法が考えられます。
週休3日制の導入
週休3日の場合、原則的労働時間である1日8時間を前提とした場合、1週間32時間が労働時間ということになります。
しかしながら、変形労働時間制を採用して1日の労働時間を10時間と設定することにより、1週40時間のまま週休3日とすることが可能となります。
(具体例)
日 | 月 | 火 | 水 | 木 | 金 | 土 |
休日 | 10 | 10 | 休日 | 10 | 10 | 休日 |
上記のように1週の労働時間の合計は40時間となるため、1日8時間の週休2日制の勤務体系と1週間単位で見た場合は労働時間は等しくなります。
労働者にとっては1日あたりの負担は増えますが、休日が増えるメリットがあります。
隔週休2日制の導入
隔週休2日制の場合には、変形労働時間制を採用して1日の労働時間を7時間15分(あるいはより短時間)と設定することにより、適法に運用することが可能となります。
(具体例)変形期間を2週間とした場合
日 | 月 | 火 | 水 | 木 | 金 | 土 | |
第1週 | 休日 | 7.15 | 7.15 | 7.15 | 7.15 | 7.15 | 7.15 |
第2週 | 休日 | 7.15 | 7.15 | 7.15 | 7.15 | 7.15 | 休日 |
上記では、第1週の1週間の労働時間は43時間30分となり1週40時間を超えていますが、第2週の労働時間(36時間15分)と合計した場合の1週あたりの平均労働時間は40時間以下となりますので、適法となります。
労働者にとっては1日あたりの負担が減る代わりに、休日は少なくなることになります。
変形労働時間制の注意点
変形労働時間制は柔軟な勤務体系を構築できる点で大きなメリットはありますが、その採用には一定の要件があり、実際の運用も非常に難しいため注意が必要となります。
採用の要件
労使協定又は就業規則等により次の①~③の項目を具体的に定める必要があります。
なお、労使協定で定める場合には、協定の有効期間を定めて、所轄労働基準監督署長に届け出る必要があります。また、常時10人以上の労働者を使用する事業場は就業規則の作成・変更の手続きを経て所轄労働基準監督署長に届け出る必要があります。
①対象労働者の範囲
変形労働時間制の対象とする労働者の範囲を明確にします。
②変形期間(1か月以内)とその起算日
「1か月単位」の変形労働時間制ですが、変形期間は1か月以内であれば2週間や4週間とすることもできます。
変形期間が1か月の場合、起算日は毎月1日と定めるのが一般的です。
③変形期間における法定労働時間の総枠の範囲内での各日、各週の労働時間の特定
法定労働時間の総枠とは、変形期間の労働時間を平均して1週の労働時間が法定労働時間(原則40時間)以内であるか判定するための尺度であり、下記の算式により求められます。
40時間×変形期間の暦日数÷7(小数点2位以下切り捨て)
※常時10人未満の労働者を使用する一定の業種(特例対象事業)については40時間ではなく44時間と読み替えます。
(参考)変形期間を1か月とした場合の月ごとの法定労働時間の総枠
月の暦日数 | 原則(40時間) | 特例対象事業(44時間) |
31日 | 177.1時間 | 194.8時間 |
30日 | 171.4時間 | 188.5時間 |
29日 | 165.7時間 | 182.2時間 |
28日 | 160.0時間 | 176.0時間 |
また、労働時間の特定は、始業・終業の時刻も具体的に定めることが必要です。始業・終業の時刻は就業規則の絶対的記載事項だからです。
もっとも、業務の実態から月ごとにシフト表を作成する必要がある場合には、就業規則にはシフトパターン、シフトパターンごとの始業・終業時刻、シフトの作成手順及びその周知方法を定めておき、具体的な各日ごとのシフトは変形期間の開始日前までに明示すれば足りるとされています。
変形労働時間制の運用
変形労働時間制を採用した場合であっても残業が生じることがあり、残業が生じた場合には残業代が発生します。
そして、残業には法律の範囲内のもの(法内残業)と法律の範囲を超えるもの(法外残業)がありますが、割増賃金(原則25%)の対象となるのは法外残業だけのため、両者の区別をするために非常に面倒な作業が必要なります(これを回避するために技術的な工夫もありますがここでは割愛します)。
割増賃金の計算については下記の厚生労働省のリーフレットなどをご参照ください。
変形労働時間制を採用する場合には、事前のシフト表の作成だけでなく、タイムカードなどで事後の実績管理も通常どおり必要であることに注意してください。
おわりに
変形労働時間制は柔軟な勤務体系を構築することができますが、採用には要件があり、実際の運用も容易ではありません。残業代を減らせると安易に採用して適切な運用を怠ると、行政による勧告・指導の対象となりうるということです。
また、一般には馴染みのない制度のため、採用にあたり従業員への説明と理解を得なければ、不満の種となるおそれもあります。
働き方改革により、週休2日制以外の柔軟な勤務体系が注目されており、変形労働時間制の活用も今後ますます重要になってくると考えられますが、採用をご検討される際には専門家への相談を推奨いたします。
当事務所でも給与計算を含めた労務サポートを提供しておりますので、お悩みの方は是非ご相談ください。